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東京地方裁判所 平成8年(ワ)23212号 判決 1998年8月27日

原告

菊池秀行

被告

今泉かほる

主文

一  被告は、原告に対し、金二三〇万九八三八円及びこれに対する平成七年八月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、金三九三万一八八一円及びこれに対する平成七年八月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

第二事案の概要

一  本件は、自動二輪車を運転中、四輪車と衝突する事故に遭って傷害を負った原告が、加害車両の所有者である被告に対し、自動車賠償保障法三条に基づき損害賠償を訴求した事案である。

なお、立証は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。

二  争いのない事実等

1  次のとおりの交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)。被告は、被告車を所有し、これを自己の運行の用に供していたから、後記抗弁(三2)が肯認されない限り、自動車賠償保障法三条により、本件事故によって、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

(一) 事故の日時 平成七年八月九日午前九時五〇分頃

(二) 事故の場所 東京都台東区雷門二丁目二番先交差点(別紙図面参照。以下「本件交差点」という。)

(三) 被告車 自家用普通乗用自動車(習志野五四ほ九二一五)(運転者及び所有者・被告)

(四) 原告車 自家用自動二輪車(足立つ二三二七)(運転者・原告)

(五) 事故の態様 原告車が、本件交差点を上野方面から駒形橋方面に向かって直進していたところに、反対車線の右折待機箇所で停止していた被告車が吾妻橋方面に向かって右折を開始したため、原告車の正面と被告車の前部左側バンパー付近とが衝突した(なお、事故の詳細については、後記のとおり当事者間に争いがある。)。これにより、原告は、右側脛骨開放性骨折の傷害を受けた。

2  損害のてん補

原告は、被告の自動車損害賠償責任保険から金七七万二七一〇円のてん補を受けた。

三  争点

1  原告は、本件事故による損害を後記のとおりであると主張する。

2  被告は、本件事故は、被告車が青信号で本件交差点内の右折待機箇所まで進入して停止し、青矢印の信号で前二台の車両に続いて右折を開始したところ、赤信号で本件交差点に進入してきた原告車と衝突したものであり、被告に何ら過失はなく、被告車には構造上の欠陥も機能の障害もなかったと主張する。

第三当裁判所の判断

一  被告の主張(免責等)について

1  本件交差点の状況

本件交差点付近の状況は、概ね別紙図面のとおりである。

本件交差点は、駒形橋方面から上野方面へと続く浅草通が雷門方面、吾妻橋方面、蔵前方面へ続く道路と交差する変形の五叉交差点で、信号機によって交通整理が行われている。浅草通の上野方面へ向かう被告車進行道路は、片側三車線で、一番右側の車線が右折車線となっており、雷門方面への鈍角の右折と、吾妻橋方面への鋭角の右折が可能である。本件交差点内は、かなり広く、見通しが良い。浅草通の信号機は、上野方面、駒形橋方面いずれも青信号三三秒、黄色信号四秒の後、赤信号七六秒の最初の四秒間に右折可の青矢印の信号が出るものであった。

(当事者間に争いのない事実、証拠〔甲第一号証、第六号証の五、乙第二号証、第六、七号証、第一三号証〕及び弁論の全趣旨により認める。)

2  1の認定事実及び証拠(甲第六号証の四・六、第七号証ないし第一一号証、乙第一四号証、第一六号証)並びに弁論の全趣旨を総合すると、(一) 被告車は、青信号で本件交差点に進入し、右折待機箇所で前二台の車両に続いて一旦停止したこと、(二) 待機していた最初の車両が青信号で右折した後、二台目の車両が待機しているにもかかわらず、被告車が右折を開始したこと、(三) 原告車は青信号で時速約四、五十キロメートルで本件交差点に進入直進したところ、被告車が右折してきたため衝突したこと、(四) 被告は、上野方面からの進入車両を確認せずに右折を開始し、衝突に至って初めて原告車を認識したこと、以上の事実を認めることができる。

これに対して、被告本人は、青矢印の信号を確認して右折を開始したと供述するものの、その事故状況に関する内容をみると、<1> 被告車の交差点進入時及び右折開始時における信号の確認状況、右折を開始してから衝突までの時間についてあいまいであるばかりか、<2> 当初、被告としては吾妻橋方面を向いていたために、原告車を確認できなかったと述べていたのが、車両の衝突部位との矛盾をつかれると、一転して上野・雷門方面を向いていたと供述を変え、<3> 右折の際に上野方面を確認したか否かについては、当初、上野方面を一応確認したとしていたが、後になって、上野方面を確認すれば当然原告車を視認できるはずなのにこれを見ていないのは不自然である点をつかれると、一転して確認してはいないと供述を変え、さらに、<4> 右折待機していた二台目車両の動静についても、当初、最初の車両が右折した後少し待ってから右折したと供述するのに、後になって、待機した状況はなかったと供述を変えている。このような被告の供述のあいまいさや重要で間違うはずのない事柄についての合理的な理由ない変遷のあること、また、その供述内容が本件の青矢印の信号が四秒間という短時間しか表示されないという客観的状況に整合しないことは、結局、被告自身が自らの実体験に基づかないで供述しているために生じていると推認せざるを得ないものであり、当裁判所は、青矢印の信号を確認して右折を開始したという点に関する被告本人の供述を信用することはできない。

また、被告は、原告本人が本件交差点より一つ前の信号のある交差点において赤信号で停止した後、本件交差点に先頭車両として進入したとする供述について、本件交差点は交通頻繁で、本件交差点で上野方面からの浅草通に信号待ちをしている車両が全くなく、原告車が先頭で進入するということはあり得ず、原告本人の供述は信用できないと指摘する。しかし、乙第七号証からは、本件交差点は交通が頻繁な場所であることが窺われるものの、一方、甲第一一号証によれば、同様の日時において、本件交差点の上野方面からの浅草通に待機車両が全くないという状況も認められるのであって、被告の右所論を採用することはできない。

3  前示事故状況からすれば、被告は、右折するに際し、矢印の信号も反対車線も確認しておらず、この点で被告に過失があることは明らかである。

また、原告車も、交差点を通行するに際しては、反対車線の右折車には特に注意し、できるかぎり安全な速度と方法で進行すべきであるところ(道路交通法三六条四項)、本件交差点は、反対車線から二方向に右折が可能な変形交差点で、既に右折待機車がいるのを認識しながら、漫然と時速約四、五十キロメートルで進行したことが認められ、原告にも右の点に過失がある。

4  結局、本件事故は、原告と被告双方の過失により生じたものということができ、被告の免責の主張は採用することはできないものの、双方の過失を対比すると、原告対被告・二対八の割合とするのが相当である。

したがって、被告は、本件事故により原告に生じた損害を、右の過失割合に基づいて賠償すべき責任がある。

二  原告の主張(損害)について

1  治療費 八九万一四七〇円(原告主張額・同額)

甲第三号証の一ないし四九により、頭書金額を認めることができる。

2  入院雑費 二万四七〇〇円(原告主張額・同額)

原告は一九日間入院した事実が認められ、一日あたり一三〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害と判断する。

3  通院交通費 三八八〇円(原告主張額・六万一一〇〇円)

証拠(甲第四号証の一ないし六)によれば、タクシー料金として支出が認められるのは、頭書金額のみであり、これを越えることを認めるに足りる証拠はない。

4  休業損害 一三七万〇六三五円(原告主張額・一三七万七三二一円)

証拠(甲第一〇号証)によれば、原告は、平成六年三月に高校を卒業し、平成七年五月から寿司屋のアルバイトをしていたこと、本件事故により、平成七年八月九日から平成八年二月二九日までの二〇五日間休業を余儀なくされたこと、以上の事実を認めることができる。そこで、賃金センサス平成六年第一巻第一表企業規模計産業計男子労働者新高校卒一八歳から一九歳の平均年収である二四四万〇四〇〇円を基礎とし、その二〇五日分にあたる頭書金額をもって原告の休業損害の額と判断する。

5  慰謝料

一三〇万〇〇〇〇円(原告主張額・二〇〇万〇〇〇〇円)

前記本件事故の態様、傷害の程度、入通院期間、その他本件に顕れた事情を総合考慮すると、頭書金額が相当である。

6  小計 三五九万〇六八五円

7  過失相殺と既払金の控除 二〇九万九八三八円

前記認定の過失割合によって、右6の損害額から二割を減額すると、残額は二八七万二五四八円となり、前記争いのないてん補額七七万二七一〇円を控除すると二〇九万九八三八円となる。

8  弁護士費用 二一万〇〇〇〇円(原告主張額・三五万〇〇〇〇円)

原告が本件訴訟の提起、遂行を原告代理人に委任したことは、当裁判所に顕著な事実であり、本件事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑み、頭書金額が相当である。

9  総計 二三〇万九八三八円

三  結語

以上の次第であるから、原告の請求は、被告に対し、二の9の二三〇万九八三八円及びこれに対する本件事故日である平成七年八月九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却する。

(裁判官 園部秀穗 馬場純夫 田原美奈子)

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